行政処分と点数制
行政による不利益処分は重い方から
①指定取消し
②期間定めた指定の効力全部停止(期間限定の取消)
③指定の効力一部停止(厚労省によると新規利用者受入停止など,処分前の営業状態に変更なし)
④(処分ではないが)改善勧告を選択できる
行政は事業者に法令違反があるときでも,このような①ないし④の選択ができるが,これまではどういう基準なのか不明だった。
近時,私の担当した事件で聴聞手続中に,行政庁が①から②に処分を軽減した事例があった。行政庁の説明によると,処分基準に照らして再検討したという。では,その処分基準とはなんだろうか。
厚生労働省は,介護保険法の施行後,平成17年改正により,処分が①ないし④に区別されたことから,処分基準の標準化を議論していた。多くの事例を集めて,民間のシンクタンクに依頼して,処分事例を分析した。
そうして,一定の処分の基準を示している(処分裁量基準)。たとえば,不請求にも多様な形態があるが,処分裁量基準によれば架空請求は3点,水増し請求は2点,減算違反し1点に区別している。
それに不正の期間を加減し点数を調整する。シンクタンクの分析によれば指定取消は概ね9点以上,それ以下は,処分の程度が,軽減されるようだ。
行政庁の濫用事例
行政庁が事業者に対し,指定取消や指定の全部効力停止処分という重い処分を選択する場合,処分の理由として「虚偽答弁」が記載されている。虚偽答弁は3点と評価されるからだが,経験上,実際は虚偽答弁にあたらない軽微な陳述を虚偽答弁とする場合が目立つ。
これは行政庁が標準処理をするときに,重い処分とするために採点を操作している疑いがある。架空請求が認められる事例でも,架空請求は3点だ。複数事業所で不正があるとして,架空請求3点を加算しても6点にとどまるから,一定期間の指定効力全部停止にとどまる。
指定取消処分(9点)に達するにはどうするか。そこで虚偽答弁3点を加算することができれば9点となるから,指定取消が可能な点数に恣意的に修正できる。
また改善勧告にとどまるべき軽微な事案でも,虚偽答弁を認定することにより3点加算して,重い処分とすることが可能となる。点数化の弊害だ。
このように,処分裁量基準の正確性は課題があるが事業者としては,どういうことをすれば,重い処分を受けるかを予測する資料になるからできる限り認識しておくべきだと思う。
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