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お知らせ

指導監査救済センター新聞6月号 要件事実論と行政訴訟
2023年05月29日

要件事実論と行政訴訟

民事裁判では、要件事実論というものがある。法律関係者以外でよく知っている、という方は多くないのではないか。法曹界だけの秘密だから(笑)。秘密というには語弊がある。というのは本屋に行けば要件事実の本は戸棚に並んでいるからだ。

民事裁判では、要件事実の存否を巡る争いになる。例えば、金銭返還裁判では,

①返還約束をしたか

②金銭の授受はあったか、が主たる要件事実だ。

①②が認められると

③金銭を返済したか、が次の問題となる。これは弁済の抗弁という。

このような要件事実は行政訴訟でも同じだ。介護事業所の処分取消訴訟の一般的な流れとしては、行政庁がおこなった行政処分に対し、

名あて人である事業者が①処分のあったこと②処分が違法であることを主張する。これに対して再び、

行政庁が③手続的な処分の適法性④実体的な処分の適法性を主張・立証する。

③④が一応確認出来たら、

事業者が⑤行政処分の裁量逸脱濫用を主張する。

 

 

法曹脳と行政行為

行政訴訟を数多く経験すると、行政がする法令の解釈適用と法曹がする法令の解釈適用とに差異があることに気づく。

これは弁護士や裁判官が要件事実的な考え方をするのに対し、行政は行政的な考え方をするからだと思う。行政的な考え方というのは説明が難しいが、行政裁量を強調して法令の条項にないことでも行政裁量としてすることが可能だという考え方である。例えば、法令違反が認められた場合、行政は勧告・指定の効力停止、指定の取消という効果を選択する裁量権があると言われる。裁量だから勧告・指定取消までどれを選択するかは、行政の自由だという考え方と結びつきやすい。

裁判官や弁護士などの法曹脳の考え方は、一般市民のそれとは違う。まず用語が独特で市民から見たら外国語みたいに感じるかもしれない。請求原因とか抗弁とかいわれてもすぐに理解できる人は少ないだろう。(すぐに理解できたら法律関係者だ)そこで共通する指標があれば便利だというわけだ。要件事実というのがそのひとつなのだ。

これこれこういう要件がそろえば,こういう効果が発生しますよ、というふうに機械的にわかる。例えば、最初の金銭返還裁判でいえば、返すという約束と現金の授受があれば、返還請求権という権利が発生する。この仕組みが要件事実だ。行政処分であれば、○○等の原因事実がそろえば,●●等の不利益処分が正当化されますという考え方だ。

 

IT裁判

2025年から民事裁判では、IT裁判が完全施行となる。膨大な書類はすべてデジタル化されるから、IT裁判に対応するにはデータの中身について合理的な内容にしなければならない。例えば、不正請求を理由とする指定取消処分が正当化されるためには、不正請求の関する要件がそろっていること、聴聞や不利益処分をする前段階の手続を実施したことなどがそろうことが要件だ。

裁判官や弁護士の考える順序とか要件が「見える化」されたら、だれでも行政裁判に参加できると思う。そうしたら今よりさらに事件数も増えるかもしれない。

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