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お知らせ

指導監査救済センター新聞6月号 実地指導で虚偽報告が処分理由と言われたら?
2021年06月07日

実地指導で虚偽報告が処分理由と言われたら?

設例①乙市は,指定地域密着型通所事業所(甲)に,介護保険法23条に基づき,実地指導をおこなう際,必要な帳簿書類を指導の日の2週間前に事前提出すること,仮に,提出しないときは介護保険法78条の10の規定により指定取消処分の行政処分をすると告知した。

設例②乙市は,指定地域密着型通所介護事業所に介護保険法78条の7第1項により監査を実施し,帳簿書類の提出をさせたが,内容に事実に反する記載(虚偽記載)があった。そこで,虚偽報告を理由とする行政処分をしたが当該処分は適法か。

検討 この問題は実際におきた事件の中で問題となりました。

前記①は,乙市が実際,甲に通知した内容です。前提となるのは,介護保険法23条に基づく行政調査(23条調査)と,同法78条の7第1項に基づく調査(78条調査)との相違です。

この相違は,以外と知られていません。23条調査は,保険者(市町村)が,保険給付の適正なことを調査するために認められた調査権ですが,任意の調査です。帳簿書類の提出を求める(お願いする)ことはできますが,事業者が応じなかったからといって,制裁を与えることは出来ません。

ですから,①については,行政がそのような告知をすることは法令違反となります。文書でそのような内容を告知すれば,刑法上,虚偽公文書作成及び同行使罪に問われます。

一方、設例②の問題は,監査の際に,虚偽の帳簿書類の提出があると,虚偽報告にあたるのかという問題です。監査を混乱させるという見地からは,虚偽の帳簿書類を提出すれば,監査が混乱します。違反事実を隠すという意図があれば,なおさら悪質です。

ただし,行政調査は,公権力により私人に対して強制する行為ですから,法令の規定の範囲でしかおこなうことができないとされています。そこで,法78条の7第1項をみてみると,虚偽の報告と虚偽の帳簿書類の提出のうち,虚偽の報告だけが指定取消処分などの原因となると規定されていて,虚偽の帳簿書類の提出は,規定がありません。ということは虚偽の帳簿書類の提出をしただけでは,行政処分とすることができないということになります。

監査妨害については,行政処分のほかに,刑罰による威嚇もありますが,法209条2号を見てみると,虚偽の報告とならんで虚偽の帳簿書類の提出も刑罰の威嚇があります。では,どうして虚偽の帳簿書類の提出だけは行政処分の原因とならないのか?

実際,帳簿書類にはさまざまな内容の書式がありますから,その一部でも事実に反する記載があれば行政処分を受けるとすると,処分対象が拡大しすぎるからではないかと思います。

法209条の刑事制裁のほうは,行政調査だけでは,刑事訴訟法上の証拠能力がないとされています。ですから,警察による捜査が開始されますから,虚偽性の確認が正確に出来るということが考慮されていると思います。

さて,設例①及び②が争点となる裁判は,これから本番です。さてどうなるでしょうか。

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