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民間の介護事業所に対して、 行政からの返還命令が認められないとされた事例
2013年07月28日

  介護事業所は、1箇月分の介護サービス提供報酬について、翌月10日までの間に国保連合会に利用者毎の介護報酬明細書を作成して一括請求するのが通常です。国保連合会では、ケアマネージャーから利用者毎の給付管理票(限度額を超えていない確認した書面)を提出してもらい、誤りがないか確認して、翌々月に介護報酬の支払いをします。事務処理上、あとで誤りがわかれば(過大請求、過小請求)、過大請求の場合は過誤返戻調整という簡易な解決処理がなされるのが通常です。
  請求者側に、「偽り又は不正な行為」があることが判明した場合は、介護保険法22条3項により、返還命令がなされることがあります。最高裁は、この法22条3項に法的な性質について、同項が受領額の1・4倍の返還金を徴収できるとさださめていることから、民法704条の悪意不当利得の特則と位置づけ、同項はさらに「偽り又は不正な行為」の立証があることが要件だとしました。
  裁判の事案では、このような不当利得の成立要件や、「偽り又は不正な行為」の主張・立証がないとして、行政側の返還請求を退けました。但し、住民訴訟の事案ですから、行政が当事者として出張していたわけではないのですが、その理屈は、行政が法22条3項の返還命令を請求した場合と同じです。

  日常、介護行政から、介護報酬の返還を求められるケースは多いと思います。特に、実地指導や監査の際、介護事業の実績記録を大量に任意提出させ、サービス提供実績と突き合わせを行えば、「記録上」いくつかの不備が出てくることは多いです。職員の書き間違いなどは、ある意味では、避けられないものだからです。ところが、介護行政では、この書き間違いなどがあると、いろいろな検討をしないまま、当該報酬請求は「偽り又は不正がある」と断定することが多いのです。理由は、サービス提供日に、サービス実績の記載がない=サービスが行われていない=不正な請求、と考えるのが一般化しているからです。

  ところが、実際の介護報酬請求は合理化されており、利用者毎に1箇月分をまとめて、利用単位として請求をします。その上、伝送システムというメール添付方式を利用することが多く、通常は、職員のパソコンのクリック操作によるものです。
  前記最高裁は、法22条3項の返還命令は、性質は、悪意不当利得返還といいます。不当利得というのは、「法律上の原因がない」のに、一方が利得して、他方が損失を被った状態をいい、悪意というのは、個々の請求について、法律上の原因がないことを知っていることをいいます。返還命令の場合、介護事業所が利得を得て、他方の行政が損失を被っているという構成になります。
ところが、介護事業所では、ケアマネージャーが個々の利用者毎に、法律に基づいたケアプランを作成して交付し、事業所に送付して、事業所ではそれを見て、利用者にサービス提供をし、翌月10日までの間に、サービス実績に応じて、介護報酬請求を行います。法22条3項が個々の介護報酬に適用されるということは、大量の事務処理のなかのうち、法律上の原因のあるものと、法律上の原因のないものとを、請求事務にたずさわる職員が、個別具体的に知っているということになるのです。これはあり得ません。

   事実認定としては、仮に、実績記録の不備がサービス提供の不存在を推認される場合もあるかもしれませんが、それは、法律上の原因の有無についての推認がはたらくにとどまります。法22条3項の「偽り又は不正な行為」というのは、民法上要件にさらに付加されたものです。それは、事前に、偽りとか不正の行為をおこなうという計画性があることを意味するはずですから、その立証がない限り、法22条3項の定める1・4倍の返還請求はできないことになります。

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